秘密の地図を描こう
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オーブがこれほど早く動くとは思っても見なかった。
「……カガリは、どうするんだろう」
その情報をつかんだ瞬間、キラはこう呟く。
オーブ軍がどちらか片方の陣営に与する、と言うことを彼女は認めないだろう。それはわかっている。ならば、出てくる答えはひとつしかないのではないか。
「ラクスが止めてくれればいいけど……無理だろうね」
彼女のことだ。自分で何とか仕様とするに決まっている。
「そう言うところは、やっぱり姉弟なのかな?」
小さな声でそう呟く。
一緒にいた時間はほとんどない。それでも、血がつながっているのは事実だろう。
「まぁ、僕が普通の《人間》の範疇に入るとは思えないけどね」
人の体温を知らずに生まれてきた自分には、と自嘲気味に付け加える。
ひょっとして、こんな風に体調を崩しているのもそのせいなのではないか。いびつな存在だから、そのきしみが、今、出ているのかもしれない。
「それでも、みんなを守りたいから」
動かないと、と呟く。
「問題は、どうやって地球に行くのか、かもしれないね」
オーブ軍がザフトと衝突する前にたどり着かないといけないのではないか。
しかし、たどり着いたとしても、自分に何ができるだろう。
「フリーダムがあれば、少しはマシかもしれないけど……」
ザフトの機体でもオーブの機体でもいけない。
それに、あれは自分とともに戦った機体だから……と付け加える。
「あれなら、ラクス・クラインが修理させていたぞ」
そのときだ。いきなり背後から声がかけられる。
「どなた、ですか?」
反射的に振り向くと、こう問いかけた。
「お前と兄弟みたいなもの、とでも言っておくか。もっとも、俺はユーレン・ヒビキが望むレベルまで達しなかったらしいがな」
その言葉に、キラは表情をこわばらせる。
「それは……」
つまり、そう言うことなのだろうか。
彼もまた、人工子宮から生まれたというのだろうか、と考える。
「まぁ、そう言うことだ」
それはもう、どうでもいいことだな……と彼は言う。
「それよりも、俺はラクス・クラインから依頼されている。もし、お前が地球に行こうとするなら手助けしてやってほしいとな」
だから、地球に行きたいなら連れて行ってやる……と彼は続けた。しかし、そんなことが可能なのか。
「あの……」
呼びかけようとして、キラは自分が彼の名前を知らないことに気づく。
「カナードだ」
そうすれば、彼は静かな声でこう言ってくる。
「すぐに決断しろと言っても難しいだろう。あいつらのこともあるしな」
それはきっと、ラウとギルバートのことではないか。
「プラント時間で、日付が変わることにまた来る。そのときまでにどうするか、決めておけ」
そして、おそらくそれがことが始まる前に地球にたどり着けるタイムリミットだ……と彼は続けた。
「わかっています」
自分でもそうだと感じていた。だから、素直に首を縦に振る。
「では、また来る」
そういうと、彼はきびすを返す。
「お待ちしています」
彼の背中に向かって、キラはそう言う。そうすれば、彼は肩越しに一瞬振り向いた。
「すぐに出航できる準備だけはしておいてやる」
そしてこう言い残す。そのまま今度こそ部屋を出て行った。
ドアが閉まったところで、キラは小さなため息をつく。
「持って行くものと言えば、パソコンぐらいかな?」
後はあちらにもあるだろう。
「ラウさんとニコルにはまず連絡しないと……ギルさんは忙しいかな?」
どちらにしろ、許可はもらっていかないとまずいだろう。キラはそう呟く。
「……世界は、どうなっていくんだろうね」
そして、自分がしようとしていることは正しいのか。それはわからない。
それでも、何もせずにはいられない。だから、とキラは立ち上がった。